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「母乳教」は何とかならないものか

 およそ子どもに関係する仕事に携わる者で、「赤ちゃんには母乳がいちばん」ということを否定する人はいるまい。ヒトの乳児の栄養としてヒトの乳汁が最適であることは、あまりにも当然である。

 しかし昨今は、そういう栄養学的な意味だけでなく、「母子相互作用」「愛着形成」といった心理的社会的な意味合いも付与され、むしろそちらに重きが置かれているように感じる場面も多い。母乳で育てるのとミルクを与えるのとで実際の愛着形成にどの程度意味のある差が出るのか、あるいはそもそも、乳幼児の社会的発達や家族関係・社会関係において、「母子関係」にどの程度重きを置くのが適切なのか、等々議論の余地はあると思うのだが(テレビを見ながら母乳を与えるのと、赤ちゃんの顔を見て話しかけながらミルクを与えるのと、どちらが「好ましい母子関係」「愛着形成につながる」というのか、とかね)。
 それにも増して、というか、疑問というのを通り越して「問題だ」と思うのは、「いかなる困難も乗り越えて母乳で育てるべき」「完全母乳で育てなければ」という、「母乳教」とでも呼びたくなるような風潮である。これは、確かに一部の人たちのものではあろうけれど、確実に根をはりつつあるように思われる。

 もちろん、ふんだんに母乳が出ていれば、とりあえず問題は起きない。しかし、みんながみんなそうはいかない。母乳オンリーで育てるという固い決意をしている人の、母乳がうまく出ていないとどうなるか。当然、赤ん坊の体重が増えないわけである。ふつうの体重で生まれているのに、7ヶ月近くなっても6kgを超えない、というようなことが起きる。

 問題だと思うのは、そうした人たちに問題を指摘しても、なかなか「問題である」と認識してもらえないことだ。体重が増えていない子で、授乳後1時間半ほどで大泣きしている、それを「空腹で泣いているのだ」とは考えない。成長曲線(の平均ではなく-2SD)からどんどん離れていっても、「少しずつでも増えているからいい」と思っている(いや最初から-2SDだったらまあこっちも長い目で見るんですけど)。つまり「母乳が良いのだ」「母乳で育てるのだ」という決意というか信念が、目の前の子どもの状態を見えなくさせてしまっているのである。

 このような堅い信念は、どこから生まれているのだろうか?そして、何故最近になって増えている(ようにしか思えん)のだろうか。もしかしてマクロビとかホメオパシーとか、そっち系なのかしらん(確かにミルクの原料は牛乳だし、工業製品だし)。

 こういう人たちは、母乳を出すためにと涙ぐましい努力をしていたりする。乳房ケアをする助産師が、適宜ミルクも足しながら、というのを否定しない柔軟さを持っていればよいのだが、そうでない人も少なくないので、ますます考えが固まってしまう、ということもあるように思う。

 母乳を推進する人は、様々な工夫をし指導をすれば、大半の産婦は完全母乳哺育ができる、と主張する(確かに現状、十分母乳哺育が可能なのに混合〜ミルクに移行している人が多いことは私も認める)。しかし問題は、赤ん坊を抱えた生活の中で、「母乳で育てる」という単一の課題に、それほど集中すべきなのか?ミルクというかなり優秀な代用品があるのに、そこまで様々に手を尽くす(そのためにお金も時間も気力も使う)べきなのか?ということではあるまいか。

 松田道雄は、有名な育児書『育児の百科』で、赤ん坊に母乳がいいのはもちろんのことで、母乳で育てようという人が増えているのは歓迎すべきこととしつつ、様々な努力をしても母乳の出が十分でない場合もある、と述べ、そのような時、母乳を出すためだけに努力を傾け精力を注ぐよりも、思い切ってミルクにして、気持ちと時間の余裕を持って育児をしたほうがよい、ということを述べた。ずいぶん古い時代の発言ではあるが、生活のリアルに沿った至言であると、あらためて思う。

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ふ、増えてるんですか!?

トラックバック、ありがとうございます。

>何故最近になって増えている(ようにしか思えん)のだろうか。

に、ショックを受けました。
私が子どもを育てた20年前でも結構多いと思っていたんだけど、あれ以上に増えているとなると、なんか怖いです。

>「母乳が良いのだ」「母乳で育てるのだ」という決意というか信念が、目の前の子どもの状態を見えなくさせてしまっているのである。

「子どものため」に母乳育児を頑張っているはずなのに、それに固執するあまり、肝心の子どもが二の次になってしまう。
先日ウチのブログで取り上げた西舘好子氏のことを思い出しました。
育児に信念を持ちすぎるために、子どもが自己実現のための「道具」になってしまうという共通項があるように感じます。

子どもを「道具」として利用するって、それこそchild abuseなんじゃなかろうか。

母乳の良さって

母乳育児の何が良いかって、「ラクできること」だと思うのです。夜中に起き上がってお湯わかす必要もなく、外出時も荷物にならず。
でも、母乳をあげることがすごく大変で苦行になるんじゃ、その良さが激減してしまいますよね。

>気持ちと時間の余裕を持って育児をしたほうがよい(松田道雄さん)<
本当にそう思います。

No title

>gegengaさま

「増えている」というのは私の体感にすぎないわけですが・・・
子どもにかかわる専門職の間で母乳推進が広く行われるようになったのはかなり以前のことですし、ここ15年くらいで見ても、離乳まで完全母乳の人の割合はなだらかに増えてきていると思います。
そういう中にも、ここでちょっと触れたような、「母子関係」のほうへもっていく、というか、「母乳で育てないから子どもがキレるのだ」的発言は混じってきますが、さすがに、明らかに体重が増えていないとかいう個別の状況があれば、教条的に母乳だけで、とは考えないと思うのですよね。

ところが、そういう「専門家の指導」とは別に、むしろ母親本人、あるいは両親が、頑なに「完全母乳で」とこだわる、ということが、どうも最近目立つ。専門家の指導を内面化しているというべきなのか、そもそも何か(たとえば「牛乳=悪」みたいな)生活信条が広まっているのか?と、ちょっと悩ましい感じでいます。

>kirikoさま

>母乳育児の何が良いかって、「ラクできること」<

そのとおりなんですよね。冬の夜中に起きてミルクをつくるあの苦労・・・
母乳は利点が多いから「お勧め」するわけですが、どこかで、「母乳が良い」が「母乳でなければいけない」「母乳で育てるのがが正しい」にすりかわってしまっているようで。

No title

とにかく生き生きと子どもに接してあげられるように、親もストレスをコントロールしながら生きるのがいちばんですよね。
母乳が出ないひともいれば、ふんだんに出るひともいるし、それぞれ可能な選択をすることでしょ。
母乳じゃなきゃ絶対ダメだといわれたら、オスは途方に暮れるしかない。
育児って、けっこうたいへんで、それでいてやれて当然みたいにされているから、トンデモが入り込める余地ありありですよね。

母乳信仰の「なにか」

north-poleさま、おひさしぶりです。
わたしのブログにも、コメントとTBありがとうございます。

「母乳信仰」も、「母性」が伝わると信じられているのでは?と、
わたしは、エントリに書いたんだけど、それだけではなさそうですね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/122836843.html

「母乳信仰」には、「人工のものはよくない、自然のものがよい」という、
素朴な自然信仰があるのではないかと、思っていたりもします。
(こっちのほうが、「母性」より、ウエイトは大きいかもしれないです。)

No title

>nagonaguさま

>とにかく生き生きと子どもに接してあげられるように<
そのとおりなんですよね。今日上げたエントリで松田道雄についてもう少し触れましたが、松田の育児論はそこのところに軸足がきちっと定まっている、と思います。

>たんぽぽさま

「自然信仰」
ちょうど今日上げたエントリでそのあたりのところを考え始めたところです。まだまったく入り口ですが。
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